豊浦いちごを盛り上げる、若き夫婦の目指す未来

豊浦町の特産品の一つである、いちご。雪が少なく温暖な気候が栽培に適しており、80年以上前から生産されてきました。町を挙げて「豊浦いちご」のブランド化に取り組んできた豊浦町では、地域おこし協力隊として移住し、新規就農を目指す研修生の夫婦を募集しています。ラストイヤーとなる佐藤貴規さん・有希さん夫妻は、独立に向けた準備を行っているところです。

自衛隊に勤務していたときの貴規さんの写真

思い出したのは、祖父母とすごした田舎の自然

千歳市で自衛隊として暮らしていた貴規さん。コロナウイルスをきっかけに、これからの暮らしを考え始めました。長女の愛ちゃんの小学校入学の時期が重なっていたこともあり、「今の生活をガラリと変えて、新しい場所で新しいことを始めてみたかったんです」。同時に、農業者だった祖父母の畑で遊んでいた幼少期のことを思い出しました。

「夏休みや冬休みに手伝っていた記憶があって、田舎がいいなって。暮らしを変えるなら、農業者として生きていきたいって思いました」。

これまでも、一度決めたことは最後までやり抜く貴規さんの姿を見てきた有希さん。熱い気持ちに触れ、これまでと変わらず、ごく自然に貴規さんの選んだ道を進むことにしました。

手厚い支援制度に背中を押され、豊浦町へ

新規就農者としての移住先を探すなかで、たどり着いたのが豊浦町でした。大きな決め手は、互いの実家の中間地点であるということと、手厚い支援制度です。豊浦町には、新規就農者の研修施設「いちご分校」をはじめ、一人前の就農者になるための制度が用意されています。地域おこし協力隊として月々の収入を確保しながら、親方に弟子入りし、いちご農家として独立できる準備を整える3年間を送ることができるのです。

1年目は、現役のいちご農家が親方となり、つきっきりで技術を学ぶ日々。2年目からはさっそくいちご分校でいちごを育てながら、就農準備を行います。

農業と移住生活を同時にスタートしたこともあり、「初めてのことばかりで、正直、大変なこともたくさん」。けれど、太陽が昇ると同時に仕事を始め、日が暮れたら一日を終えるシンプルで充実した学びの日々は、「めちゃくちゃ楽しいっす!」と貴規さん。

短く切った爪の先にネイルが輝く有希さんは、千歳市でネイリストとして働いていました。長靴を履いて土に触れる仕事をすることに最初は少し抵抗があったそう。けれど、「やってみたら意外と、すんなり受け入れている自分がいたんです。やってみるまで、こんなに合ってると思わなかった!」動物も自然も、嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。農業者として必要な知識だけでなく、自分自身の内面のことも。移住して新たに知ることがたくさんありました。

これからも「豊浦いちご」を盛り上げていくために

佐藤夫妻と同じように新しく新規就農した夫婦は、2024年3月現在で6組。大岸地区でいちご農家に取り組んでいる先輩農家は3組なので、すでに新規就農者の数が上回っていることになります。

「自分たちとしても、一緒にがんばる仲間たちがいることが本当に心強いんです。友だち以上の関係だなって。仲間をもっと増やして、豊浦いちごを盛り上げたいですね」。

初めてお客さんに手渡しでいちごを売ったときのことは忘れられません。売った先の顔が見えた経験から、誰かの口に入るものを作っているんだという責任感が湧いたと有希さん。これからも豊浦いちごを盛り上げていくため、いちごを使った日持ちするお土産の開発や、いちごをモチーフにしたゆるキャラの考案、SNSの運用など、さまざまなアイデアをワクワクしながら話してくれました。

有希さんが考えた豊浦町のゆるキャラ。「ホタテのかわいいスカートを履いた豚が、いちごの被り物をしてます。名前はいちこです」。

子育てと仕事、両立できるバランスを模索しながら

いちごを育てる傍らで、すくすく育つ子どもたち。夏は近くの海に遊びに行ったり、ときには室蘭まで買い物にでかけたり。限りある子育ての時間を大切にしながら、なんとか子どもたちと過ごす時間をつくろうとしています。

子どもを我が子のように見てくれる大人との出会いが増えたことが、田舎に移住してよかったことの一つ。学校の先生や、友だちの親。そして、子どもたちの間でも、年下の子を兄弟のように面倒を見る環境があります。「だからうちの子も、年下の子に優しい子に育ちました。それが連鎖しているのが、少人数の学校でよかったことかな」。

今の悩みは、仕事に集中しすぎて、ともすれば育児にかける時間が少なくなってしまうこと。「生活と仕事、子育て、家族。全部つながってて、どれかが欠けてもダメなんです。どこに重きを置くかっていうことをずっと話し合っています」。

働くことも大事だけれど、それは目的ではなく、生きるための手段の一つだと思っている有希さん。子どもを思うからこそ、農業者として一人前になるまでは仕事優先でがんばりたい貴規さん。どちらの正しさもわかるからこそ、何度も話し合い妥協点を探す日々。

「ずっと一緒にいるから、ケンカすることも話し合うことも、移住前よりずっと増えました。だけど、それはこれからも一緒に生きていこうと思っているからこそ。大変だけど、今以上にお互いのことをわかり合えるきっかけになったかなって捉えようと思ってるんです」。

どこか自分たちに言い聞かせるように有希さんが言い、貴規さんがうなずく。研修中の3年間は、共に歩んでいく夫婦として、互いをわかりあうためにも大切な時間なのかもしれません。

仕事と暮らしの基盤をつくりながら

ゆっくり語られる言葉のはざまで、薪ストーブの音がパチパチと弾けます。ここは、佐藤夫妻が仕事の合間に自ら工事を手がけている古民家です。基礎と骨組みだけにした古民家を、地元の大工にやり方を教わりながら自分たちの住み良いように作り変えています。大きな窓から見える敷地には、育苗中のハウスが6棟並んでいます。家の脇には、おいしい水がこんこんと湧く泉も。これからは職住隣接した場所で、「ファーム699」という屋号で活動する予定です。

「研修中に初めて食べたいちごのおいしさが忘れられないんです。おいしいいちごを食べるために、技術を磨いていきたい」と貴規さん。まずは自分が満足できる味に仕上げることが一番。ケンカしながら、家をつくりながら、子育てとのバランスを探りながら。すべてにとことん向き合って、全力で悩みながら進む二人の未来が明るくないはずありません。動物たちも、佐藤家も、いちごの蕾がふくらむ春を待っています。

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